
大学を卒業し教壇へ
植田美恵子
札幌市
聴覚障害者の長男、恭正が満面に笑みをたたえ、Vサインを示しながら私の家にやってきたのは平成六年九月三十日でした。恭正の手には、目映いばかりの真新しい大学の卒業証書が輝いておりました。
私は思わず、「やったね、頑張ったね」と胸がいっぱいになりました。恭正も、「苦しかった」と一言。いままでに一度も弱音を吐いたことのない恭正でしたが、勤めながらの大学の通信教育、五年六ヵ月の死闘の歳月を思い起こすかのように、その言葉には実感がこもっておりました。
思えば昭和三十二年、逆子で難産の末、仮死状態で生まれた恭正は、股関節脱臼と聴覚障害という二重のハンディを背負ってこの世に誕生しました。
私のこれまで生きてきたなかで、どんな障害にせよ身近にそのような人との出会いがありま
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